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2015年4号

花柳寿南海 × 花柳幸舞音
インタビュー・城後一朗
写真・坂口ユタ

花柳寿南海 × 花柳幸舞音 最優秀賞受賞者インタビュー

日本舞踊協会が毎年1月に主催する各流派合同新春舞踊大会。この公演は、文化庁との共催で行われるコンクール公演で、これまでたくさんの優れた舞踊家がこの公演から巣立っていきました。昨年の本公演で最優秀賞に輝いた花柳幸舞音さんと師匠である人間国宝の花柳寿南海さんに新春舞踊大会にまつわるお話や芸の道についてうかがいました。

幸舞音さんの新春舞踊大会最優秀賞おめでとうございます。まず寿南海先生のご感想は。

寿南海
不思議に思いましたね。一生懸命やってるんだかやってないんだか分からないけど、一生懸命には見えますからね。だからまあ、よかったわねっていう感じでしたけど。
城後
いきなり厳しいですね(笑)

先生のお弟子さんは新春舞踊大会でも沢山の方が賞を受賞されています。先生が指導者として、心がけていらっしゃることはありますか。

寿南海
新春舞踊大会があるからといって、そのためだけのお稽古はしていませんから。普段のお稽古の姿勢に出ますし。私は人を教えるのは好きではないし、上手でもない。自分で踊る方が好きですね。ただ、弟子っていうのは自分に似ますので、変な踊りを見ると私もあんなことやっているのかなと思います。弟子は鏡というけれど、本当にその通りですね。
城後
自分の癖みたいなものがお弟子さんにも。
寿南海
ええ、だいたい悪いところを取ってくれますからね。

今度は幸舞音さん、最優秀賞を受賞されたお気持ちは。


「清元 折紙」
(NHK Eテレ「にっぽんの芸能~今かがやく若手たち~」)

幸舞音
全く信じられないという感じでした。『梅の春』は、先生がとても大切にされている作品だけに、2年連続でさせていただくことは、正直、不安な面もありました。何にも進歩してない、という風に思われたらどうしよう...と。ですから、もう必死でお稽古しました。ですが、本番では自分の思うような手応えがなく自信などありませんでした。ご一報を頂いたときは、何とも言えない込み上げる思いと、これまでの新春舞踊大会でのことが走馬灯のように蘇り、涙が止めどなく溢れました。

新春舞踊大会の前というのは、どれくらいお稽古されるのでしょうか。

    寿南海
    まあ私は、あまりお稽古しませんですから。
    幸舞音
    今回は、先生にお稽古を見ていただいたのは3回。一番初めに見せたら「何やってんだ」と、厳しく言われて。次のお稽古の時には、「本当につまらないねぇ。」と、先生が一言おっしゃって。色々なことを考えさせられました。。

    「つまらない」とは、どういうことですか。

    幸舞音
    恐らく、踊りがきちんとこなせてないから、つまらないとおっしゃったのだと思います。
    寿南海
    梅の春っていうのは、やっぱり難しいです。振りや、その当時の情景も知ってなければいけないし。でも、考えて踊ると面白い踊りです。

    新春舞踊大会に11年間挑戦してきて色々あったと思いますが、どういうことを学びましたか。

    幸舞音
    自分の踊りに対して講評が出ることも順位が出るということも、それまではなかったので客観的に自分の踊りがどうなのかという風に見る機会ではあります。あと、やはりあれだけ一生懸命になれる舞台、舞踊家が1年間を通して新春舞踊大会のために勉強出来る機会というのは、なかなかないと思うので貴重な時間だったと思います。今年11年振りに新春舞踊大会のお稽古がないお正月を迎えるのですが、どんなお正月になるのだろうと不思議な感じがして今でも番組表を見たりすると毎年出演させて頂いていたので、ここに自分の名前がないということが少し不思議な気持ちにもなりました。新春舞踊大会は、踊りを勉強するという点で多くのことを学ぶ機会となっているのと同時に、色々な方に支えられているということをすごく実感しました。衣裳屋さんもかつら屋さんも「来年は何やるの?」と言って1年がかりで皆さんが色々と考えてくださったり、結果がふるわなかった時に、沢山励ましてくださる先生方や先輩達がいて、それはもう流派も世代も越えて色んな方に励まして頂いて背中を押してお尻をたたいて頂いたので、皆さんたちの思いを沢山受けて頑張らなきゃ、といつも思っていました。そういう一つひとつが、とても有難いといいますか、皆さんの優しさや温かさを感じさせてもいただける機会になりました。

    幸舞音さんに、これからどのような舞踊家さんになって欲しいとお考えですか。

    寿南海
    自分らしい舞踊家にならないといけないと思います。「これは幸舞音さんに踊って欲しいね」というような個性的なもの、自分らしいものを持つといいますか、一つひとつ、いい意味の個性がなければいけないと思います。上手い踊りとかではなくて「いい踊り」を踊れる舞踊家になって欲しいですね。

    先生にとっての「いい踊り」とは。

    寿南海
    上手そうに踊るのではなく、見た人が感じのいい踊りと思ってくれること、見た人が気持ちよく見られる踊り。そういう「いい踊り」を踊れる人間、そういう心を持っている人に育てたいとは思いますし、自分もそうなりたいと思っています。

    10年間先生のところでお稽古をされて、糧になっていることはどんなことでしょうか。


    「一中節 都若衆万歳」
    (花柳寿南海・翫一主宰「木の花會」)

    幸舞音
    「踊りに人柄が出る」ということですね。本当によく感じます。踊りのことだけではなく、人としてどうあるべきか、ということを本当に日々感じさせられると言いますか、それが一番だと。お稽古に伺ってから何年目かの夜中に先生と2人で色々な話をしました。「天才と努力家がいたら努力家が勝る」というお話をされて「でも最終的には人柄だよ」と先生がおっしゃって。先生は自分のお弟子さんに対しては勿論ですが、外の舞踊家さん
    幸舞音
    のことも大切に考えてらっしゃるし、舞踊界全体的なことをいつも大きく見て、大切に考えていらっしゃいます。誰に対しても何に対しても情が深いというか懐が深くて大きく温かな心で、だから先生の踊りは素敵なのだと恐縮ですが感じています。
    寿南海
    ある方が初代の花柳のお家元に「舞踊家になったからには、私はこれからどんな勉強したらいいですか」と聞いたら、そうしたらお家元は、「そんじょそこらにいるよ、師匠は」って、おっしゃったって言うんですよね。ですから、舞踊家というのは、周りにいるもの全てが師匠なんだと思いますね。

    これからどのような舞踊家になりたいと思いますか。

    幸舞音
    改めましてスタートラインに立たせていただいたような気持ちです。寿南海先生をはじめ多くの皆様のお陰様で、目標の一つを達成できました。でも、果たして今の自分に何が出来るのかと問うと、まだまだ未熟で何も出来ません。新春舞踊大会で最優秀賞を頂いた時、これから心機一転、一つずつ勉強をしていかなければいけないという気持ちになりました。自分にはどういうものが向いているのか、どのような舞踊家を目指すことが良いのか、まだ手探りの状態です。
    先生は、素踊りを得意とされておりますので、先生の素踊りを見ると日本舞踊って本当に面白いなと思います。ですので、将来はきちんと素踊りが踊れる舞踊家になりたいという気持ちと、歌舞伎役者さんとは違う女性舞踊家ならではの踊りを目指してもっと技術を磨いていきたいと思います。
    これから10年20年と古典・新作・創作と色々な作品を勉強させて頂いて、最終的に素踊りを。兎にも角にも、まだまだ勉強不足ですので沢山勉強しなければなりません。日本舞踊を通じて、先生から私は色々なことを教わり伝えて頂いているのですが、先生がご自分の先生から教わったことを先生の身体を通して伝えて頂くということが、私は小さい時からすごく素敵なことだと思っていました。このようなことが日本舞踊の魅力の一つでもあるような気がします。
    この形が出来たから良いというものではないので果てし無く勉強は続くのですが、先生が作品に取り組む時、どのように考え、表現なさったのかなど、少しでも多く理解し表現したいと考えながら、努力して参りたいと思います。


    平成26年5月27日(火)開催 定時会員総会表彰式

    城後
    先生にはこれからもお元気にご活躍されて、そして沢山のお弟子さんを育てていただきたいなと思います。
    寿南海
    皆ね、日々勉強しなければいけないですね。自分もこれからまだまだ勉強したいと思います。
    城後
    これ以上先生に勉強されちゃったら、誰も一生追いつけなくなります(笑)
    寿南海
    まだまだこれからです。宜しくお願いします。
    城後
    寿南海先生、幸舞音さん、長時間ありがとうございました。

    花柳寿南海●はなやぎとしなみ

    1924年(大正13)東京生まれ。花柳寿京、花柳寿陽に師事。二世花柳壽輔の薫陶を受ける。文化庁、国立劇場、協会ほかの主催公演に多数出演するほか、自身の舞踊研究会、リサイタルも永年にわたり主宰。振付作品も多数。日本芸術院賞、文化庁芸術選奨文部大臣賞、文化庁芸術祭賞ほか多数受賞。勲四等宝冠章受章。重要無形文化財保持者認定、文化功労者。


    花柳幸舞音●はなやぎさちまいね

    花柳寿南海に師事。日本大学芸術学部演劇科日本舞踊コース卒業。日本舞踊協会主催公演や国立劇場主催公演、文化庁学校巡回公演に出演するほか、NHK「にっぽんの芸能」などメディアにも多数出演。またテレビ・演劇・ミュージカルなどの振り付け、舞踊所作指導なども行うなど活躍中。人間国宝である花柳寿南海指導のもと、表現力に磨きをかけている期待の舞踊家。川野希典賞(日本大学芸術学部卒業制作)、平成26年各流派合同新春舞踊大会最優秀賞受賞。

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