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2014年3号

藤間勘十郎 × 花柳ツル <figure>これは、レイアウト Figure タグのコンテンツです<figcaption>これは、レイアウト Figure タグのキャプションです</figcaption></figure>× 藤蔭里燕
インタビュー・城後一朗
写真・坂口ユタ

藤間勘十郎 × 花柳ツル × 藤蔭里燕 櫻草紙インタビュー

いよいよ7月に本番を迎えた第6回新作公演「櫻草紙」、今回は、演出・脚本・作曲・振付をお引き受けいただいた藤間勘十郎さん、そして主役を勤める花柳ツルさん、藤蔭里燕さんのお三方にお話しを伺いました。

まず、藤間勘十郎さんに伺います。日本舞踊界では古典舞踊の継承のみならず、様々な試みによる新作、創作作品を作ってきましたが、これまでの歴史を振り返って感じていることをお聞かせいただけますか。

勘十郎
そうですね。この新作公演に限らず、今の日本舞踊界というのは色々な試みをしていると思います。逆に、色々なものをしつくして、もう無いのではないかと思うんですよね。歴史的に考えても、例えば、本当に洋楽、オーケストラで踊ることが新しかったのかって言われると、うちの祖父(六世藤間勘十郎)がもう随分前からやっていたり、新しく團伊玖磨先生に作っていただいたもので、歌舞伎座でフルオーケストラを呼んでやっている時があったり。では能とやることが新しいのか、いや、能と歌舞伎・舞踊なんかも大昔からやっていたりする。そんなこといくらでもやっているし、タイツで踊っていることだってありましたよね。そういう時代も経て、色々なことをやりつくしていて、今はどちらかというと、もう1回煮詰めるというか、もう1回改めて見直す時なのではないかと思うんです。

そのような現状を踏まえて、日本舞踊における新作の
あり方をどのようにお考えになっていますか。

勘十郎
私は古典作品が好きでやっていますから、極力やっぱり古典に近い新作、三島由紀夫先生でいう“擬古典”という言葉を使うのですが、自分の作品は全部、擬古典で作ってきているんですね。もちろん自分の家が歌舞伎の振付師であることもあり、うちの母からの教えで、“歌舞伎における振付というものは、奇をてらってはいけない”と。

“この作品というのは、何十年も前からあったんじゃないかな”というように思わせるのが歌舞伎における新作の振付の仕方だっていうことをずっと言われてきました。祖父もそうでしたし。今は色々な演出家の方がいらっしゃったり、僕も野田秀樹さんや渡辺えりさんと一緒にお仕事をさせていただいたり、そういうときは色々なテイストを入れて作ったりします。しかし、基本的には、例えば歌舞伎座でやるのであれば歌舞伎座の枠組みに“はまる作品”というのがあるはず。古典をベースにしたもの、特に歌舞伎座はそういうものをずっとやり続けてきた劇場で、そこに来るお客さんはそういうものを観に来る。 だからこそ、そこで作るものは古典がベースにあるもので、それこそが皆さんの求めているものだというように思っていますし、そういう教育を受けてきたものですから。 僕も新しいものを作る時は、どうしても三味線で“ここは何かの合方で”、ちょっと困ったら、“風音入れて下さい”というように、歌舞伎の手法、昔の手法を使いがちになってしまう。 そこは僕の振付の特徴でもあり、1つ自分の欠点でもあると思っていて、そこから打破出来ない部分があったりします。まぁ、僕も悩みながらやっているんですよね。そういう意味では、やりつくした中で擬古典というものを作り続けるということが自分の1つのライフワークです。古典の匂いのする作品をやり続けたいと思っています。

今、擬古典というお話が出ましたが、古典でやるのであれば、ここは譲れないというところはありますか。特に音楽のことについてこだわりがあるようにお見受けしますが。

勘十郎
そうですね、音楽はいつもこだわる部分です。一音一音、鐘の音一つ、風の音一つ、三味線のチンの音、ツンの音、長唄さんたち、清元さんたちの、あの音、うの音もかなり細かくダメ出しをさせていただいてはいます。音楽もそうですけれども、僕はキャラクターというか、出演者の持っていらっしゃる個性が1番に出なければ作品をやる意味はないと思っています。 群舞は、例えば20人いて20人で1つのものを作りますが、20分の1ではなく、1が20個あるからすごいものが出来ると思うんです。
1を20で割っていたら意味がない。だったら1人でやっている方がいいと僕は思っていて。1が20個あるからこそ出て来る何かというものを求めて昔の方は群舞というものを作ったんだと思うんです。 今回も色々なお役が登場します。花の精・人間・鳥・昆虫…色々な役が出て来ますが、この1つ1つの役が浮彫りになり初めて作品というのは成立すると思っています。例えば、雷1役にしても、雷が9人いるから9分の1ではなく、雷の色々な面を持った人たちが9人集まって出て来るから嵐にみえる。蝶々にしても何故、色々な名前が付いているのか。アゲハチョウとかタテハとか蝶々は蝶々でも様々な名前があって、その種類にはその種類の特徴があるはずなんですよね。そういうものを出したいと思っていますし…。そういう様々な役のキャラクターが出ることを1番に願っています。

歌舞伎はそもそも役者さん本位に作られるようなところがありますが、日本舞踊の作品を作ることにおいてもそのように意識されるということですね。

    勘十郎
    やはり歌舞伎、宝塚など僕がいつも振付けに行かせていただくとそうですが、何の何其の役が出てきたからといって拍手するのではなく、何とか屋、中村何某、市川何某が出てきたからお客さんはワァーッという。つまりその人でなければ意味がない。本当に有名な話で、祖父が十五代目の羽左衛門に開幕、廻り待ちの時に、5分前ですね、楽屋に呼び出されて、「拍手が来ないのはお前の振りが悪いから今ここで直せ」と。「私、明日までに直してまいります。」「今、直せないんだったらお前この社会にいなくていい、やめちまえ」と言われた。そこで取り入れたのが癖だった、その役者の。その人の癖を取り入れたらお客様に大いに受けた。それから振付には役者さんや相手の癖を取り入れるようにしていたという話があるくらい、その振りでみせるのではなくて役者でみせる、いわゆる演者でみせるというのがあるんです、歌舞伎は。 日本舞踊もそうあってもらいたいという願いがあります。もちろん、自分もそうでなければならないのではないか。いつかは藤間勘十郎が出るから観に行こうと言われなければいけない。今回も、若手2人にやっていただきますが、「あ、ツルちゃんが出るなら、里燕ちゃんが出るなら、観に行きたいわ」っていう人が出てこないと意味がないのではないかと。いわゆる公演なんですよね、これは。今回は、そうなるように一歩でも近づければいいと思っています。

    今回、勘十郎さんの方から若手の人を抜擢してやっていきたいというお話がありました。その意図をお伺いしたいのですが。

    勘十郎
    お二人は同い年ですか?
    ツル
    23歳です。
    里燕
    24歳です。
    勘十郎
    僕が初めて振付師になったのが20歳の時なんです。勘十郎になったのが22(歳)、歌舞伎座で振付師デビューをしたのが24(歳)だったんです。だからこれくらいの時には、全部やっていたんです、歌舞伎座デビューまで。引っ張ってくれる人がいたんです。
    今の自分が藤間勘十郎として、舞踊家として、振付師としてここまでやってくることができているのは、最初に振付師として認めて下さった方がいて、六世勘十郎の孫だから、七世勘十郎の息子だから使ってやろうって言って使って下さった方がいて、まだ出来ないけどまぁこれくらいだったらいいだろう、と言って次に使ってくれる方がいて、それを見た方が、あいつがデビューしたのならと言って使って下さる役者さんがいて…という手順を踏んでいるんですね。 若い時に色々な経験をして、例えば、ちょっとでも主役をやる機会があったり、振付をする機会があったのなら、その機会を無駄にしないでやれば、絶対にスターになると思うんです。振付師としてここまでなれたのは、そういう方たちがいた時に絶対にこのチャンスを逃すものかと、死んでもやりきってやるぞと、寝ないでも倒れても、7月が終わればいっぱい寝られるというくらいの気持ちでやってきたからなんです。そのくらいの気持ちで、仕事1つをやっていたんです。何故選ばれたのかっていうことよりも、選んでもらったのであればやりましょうという。自分がそういう経験をしてきたので、それはとても幸せな経験でしたし、やはりこの経験を他の人にもしてもらいたいというのがあります。

    自分だけではおしまいにしたくないと思って、若い人たちにと思い、このお二人をキャスティングしました。なので、若い人たちには正直かなり大変だとは思いますが、期待を込めたのは、自分がそういうことを20代の前半、半ばくらいのときに色々させていただき、凄く嬉しかったのと、それがあったからこそ今やっていられる時があるんです。だから僕が書くものがあるのなら若手にいい役をやってもらい、そこで「あぁ、日本舞踊は若い人でもこんなにいい人がいるんじゃないか。」と思う人が1人でも2人でも出てくればいいなと。
    それがそのうち、1人が10人、10人が100人になる。彼女たちは若いから、今1人でも、10年経っても33、34(歳)ですよね、今の私くらいですから。そのころには100(人)になって、もしかしたらもっと増えているかもしれないし、40代になったら1000(人)になって…ということになればいいじゃないですか。

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